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2010年1月23日 (土曜日)

砂川市有地の政教分離訴訟で新基準

 砂川市が空知太(そらちぶと)神社に私有地を無償で使用させているのは政教分離に反する憲法違反として、市民が菊谷市長を相手に訴えを起こした「砂川私有地神社訴訟」で最高裁大法廷は20日、無償提供は信教の自由の保障との関係で、相当とされる限度を超えると述べ、違憲の判断を下した。だが違憲状態の解消には撤去が必要とした二審札幌高裁判決を破棄し、別の解消方法について審理を尽くすよう同高裁に差し戻した。

 判決は、国や自治体の行為が政教分離原則に反するか否か①施設の宗教的正確②無償提供の経緯や様態③一般人の評価  ─ を総合的に考慮し、従来の「目的効果基準」(*1)とは別の、社会通念に照らして判断する必要があるという新たな憲法判断基準を示した。
 その上で、空知太神社は鳥居やほこらがある明らかな宗教施設で、祭事を行っているのは管理している町内会ではなく宗教団体の氏子集団と認定。「一般人からみて、砂川市が私有地を長期間にわたって継続的に無償提供していることは、特定の宗教に特別の便宜を提供し、援助していると評価されてもやむを得ない」として、違憲と結論づけた。
 ただ、二審判決が違憲状態の違反解消には鳥居やほこらなどの撤去が必要としたのに対し、大法廷判決は「撤去は地域住民の宗教活動を困難にし、信教の自由に重大な不利益を及ぼす。有償譲渡や適正価格で貸し付けるなど、他の方法でも解消することができる」と指摘した。

原告の谷内栄さんの話
「憲法の面では勝ったが、(100点満点で)65点の判決。違憲判断の後に続く(審理差し戻しという)言葉が良くなかった。だが最高裁が憲法を守ってくれたことで、ある程度道が開けてきた。子どもや孫の世代のため、この判決を発展させたいという気持ちが今のわたしを支えている」
菊谷勝利・砂川市長の話
「違憲状態を解消するため、関係者と話し合って解決を図りたい。(鳥居などを)撤去するのが良いと思うが、それができなければ土地の売却が良いのか賃貸が良いのか、どういった方法なら理解が得られるのか、話し合っていきたい」

 明快な判断の背景には、大法廷判決が従来より一般的な社会常識を「重要な考慮要素」と位置づけたことがある。このため、施設の宗教的性格などに加え「一般人の評価などを総合的に考慮するべきだ」という新基準を提示。あいまいで分かりづらいと批判され続けた従来の「目的効果基準」を使わず、より一般人でも分かりやすい判断基準を示したことは評価できる。
 ただ、完全な政教分離は不可能という最高裁の立場は変わっていないため、「今回の基準でもまだあいまい」との批判は残るだろう。
 最高裁が、あいまいという批判を払拭し、市民感覚を意識した政教分離原則判決を出せるか否かは、つぎの判決が試金石となる。

平野武・龍谷大学教授(宗教法学、憲法)の話
「空知太神社に関する違憲判決は、神社の宗教性を認め、政教分離をめぐる最高裁の立場を明確にしたことで、意義は大きい。同種の問題を抱える各自治体へ波及するだろう。一方、富平神社(*2)に関する合憲の判断は不満が残る。政教分離の原則は、自治体が宗教施設に利益をもたらす形で『違憲状態を解消した』というのは本末転倒だからだ」

熊本信夫・北海学園大学名誉教授(行政法)の話
「本件の神社施設を宗教施設と見なし、宗教行事を公有地で行うことを違憲とした点は評価できる。ただ、空知太神社に関して意見と判断しながら、札幌高裁に差し戻し、違憲状態を解消するため施設の撤去以外の方法の有無を検討させることに意味があるのだろうか」

 判決後、原告の谷内栄さん(79)は最高裁南門に姿を現し、報道陣に語った。宗教と公権力が結び付いた暗い軍国主義の時代を知る世代。空知太神社の敷地が私有地と知り、見過ごせなかった。活動を始めてから18年間「憲法の本を体から離したことはない」。
 空知太神社は小学校の増築に伴い、住民が土地を寄付して現在地に移転した。開拓時代に住民の精神的よりどころとして建てられた小規模な神社で、土地の所有権が問題となったこともなかっただけに、菊谷市長は「特定の宗教を援助する意図はなかった。最高裁の判決は実態と比べ、厳しい」と戸惑いも見せた。
 空知太神社を管理する空知太会館運営委員会委員で、空知太神社世話人会総代の佐藤勉さん(82)は「市の意向を聞き、十分相談して決めたい」とした上で「開拓した人たちが大変な苦労をして五穀豊穣、無病息災を願った気持ちを残せるようにしたい」と語った。
 砂川市のケースと同様に、公用地を神社に無償貸与しているのは、砂川市を除く道内34市のうち12市と道の計62件に上ることが分かった。町村を含めると、100件以上になるとみられるが、最高裁判決を受け、各自治体は有料貸与に変更するなどの準備を進めている。一方、こうした神社はおもに明治時代に開拓者がつくり、長い間、地域のよりどころになっていることが多く、住民の困惑も大きい。
 道内で最も多い17神社に無償貸与している北見市。市は「開拓当時から、この状態が続いているのでは」(総務部)と推測するが、私有地を貸した経緯は分からないという。
 無償貸与を受ける神社の多くは宮司が常駐せず、町内会が管理運営している。祭りなどの行事のほか、町内会館代わりの利用も多い。
 道有地に建つ札幌市豊平区の中の島神社。10町内会でつくる運営委員会などによると、同神社は1877年(明治10年)に開拓者5人がつくり、1914年(大正3年)に近所の現在地に移転した。
 後に道有地であることが判明し、1994年に道が運営委に売却を提案した。土地は1360平方メートルで、売却金額は3億4千万円。当時の運営委員会は「払えるわけがない」と受け入れず、以降、売却の具体的な話はなく、無償貸与が続く。
 運営委員の阪井治美さん(81)は「長い間、道の土地であることを地元では誰も知らなかった」と困惑する。
 道内の神社の成り立ちに詳しい大浜徹也・筑波大名誉教授(近代宗教史)は「道内は開拓期に全国からきた人たちが故郷の神様を持ち込んでまつったケースが多く、地域の心のよりどころの意味合いが強い。最高裁の違憲判断は、道内の歴史や実情を理解していない」と話している。
 これに対し、札幌のキリスト教関係者は「違憲は当然の判決だと思う。土地に限らず、日本は政教の境界があいまいな傾向がある。今回の判決は神道のみならず、すべての宗教関係者に対しても、そうしたルーズさを指摘する警鐘になるのではないか」としている。

(*1)目的効果基準
国や自治体に許されない宗教活動を『社会的・文化的条件に照らして相当限度を超えるもの』に限定し、『どの程度のかかわり合いならば憲法上許されるのか』を判断する基準。
(*2)富平神社
砂川市の市有地の神社を巡る2件の政教分離訴訟の一方。市が富平神社の立つ私有地を管理する地元町内会に無償譲渡したことが違憲かが争われた。最高裁大法廷は20日、「違憲の恐れのある状態を解消するために行ったものだ」と合憲判断し、市民側の上告を棄却した。判決は、この私有地はもともと、地元住民が市に寄贈したものであり、無償譲渡しても市条例の趣旨に適合すると指摘した。

(北海道新聞1月21日朝刊紙面抜粋)

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